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第3章【法律編】民泊を行うための3つの法律
ご相談の中で「民泊をしたいけど簡易宿所の許可を取る必要があるんですよね?」という質問をよく受けてきました。
確かに以前は簡易宿所の許可を取得してはじめることが主流でしたが、旅館業の改正や住宅宿泊事業法の施行などでこの数年で多様化しました。
この章では民泊を合法的に行うための法律について、あなたの民泊スタイルに合った許可(届出)を選択できる道標を提示します。
3-1 住宅宿泊事業ではじめる
メディアで民泊新法というタイトルを目にしたことがある人も多いかと思いますが、正式には住宅宿泊事業法といいます。
私が思うベストな利用方法
- セカンドハウスで、自分が使いたいときに使うが、空いた期間他人に貸出したい。(宿泊事業として)
- 相続物件で活用方法を協議中。売却はしたくないが空けておくのはもったいないので、少しリフォームしてしばらくは民泊で活用したい。
- マンスリー賃貸の空白を埋めたい。
など、隙間を埋める形での利用です。
届出で落とし穴にはまらないよう準備を
住宅宿泊事業法で事業を始めるには、都道府県知事等に事業を営む旨の届出を行います。
届出と聞くと、住民票の異動届のように「単に必要事項を記載して提出するだけ」と思われる方が多いですが、「消防法への適合、安全措置の基準のクリア、各種面積算出、管理業者との契約締結書類の準備‥」など多岐に渡ります。
消防法に適合しなかった…など思わぬ落とし穴にはまらないためにも、しっかりプランニングが必要になります。
メリット
- 用途地域の制限がない(例外的に条例禁止部分あり。市街化調整区域は要相談)
- 住宅をそのままの用途で利用できる(建築基準法での用途変更の必要はない)
- フロント設置義務がない
- 申請書類の作成が専用のシステムで可能
- そのまま電子申請での申請も可能
- セカンドハウスや別荘など自分が利用しない期間を貸し出し可能
- 賃貸募集中の期間でも活用可能
デメリット
- 年間180日の制限がある(4月1日から翌年3月末まで)
- 家主同居型(ホームステイ型)以外では管理業者への委託が必要
- 消防法の基準はホテル旅館と同じ
- 消防法とは別途に安全措置に応じた設備投資が必要
- 2ヶ月に1度の宿泊者の定期報告が必要
- 居住要件のクリアが必要(詳細はリンク先をご覧ください。)
3-2 旅館業ではじめる
宿泊事業において旅館業許可でのスタートは最もスタンダードな方法ではないでしょうか。
ホテルや旅館以外に、最初にお話しした「簡易宿所」許可もこの旅館業の中に含まれます。
旅館業の種別
- 旅館・ホテル営業
- 簡易宿所営業
- 下宿営業
旅館業法の改正によってホテルと旅館の区別がなくなり、統合されました。また部屋数の制限もなくなり1部屋から取得できるようになっています。
簡易宿所営業とは、主にカプセルホテルのように多人数で部屋を共有するスタイルでの運営が該当します。旅館業法改正前は下限部屋数制限やフロント要件などが厳格で、要件が緩和された簡易宿所営業で許可を取得するケースが多くありました。
現在は本来の目的での利用がメインになっています。
下宿営業は1ヶ月以上の期間を単位とする施設となっており、学生向け下宿宿などが該当するかと思いますが、新規開業はあまり見かけません。
また完全に宿泊事業向けの許可になるので、許可スペースを他の用途に利用することは原則できません。
日数制限はありませんが、常時宿泊者の対応をすることが義務付けられており、部屋が空いている場合は原則宿泊の拒否ができません。
メリット
- 日数制限がなく存分に事業として営業できる
- 掲載可能なOTA(宿泊予約サイト)が多い
- 事業融資や外国人ビザ取得の際に事業性を認められやすい
- ICTを利用したチェックインなども対応している
デメリット
- 都市計画法上の用途地域によって開業できる地域が決まっている
- 建築基準法に適合した物件でないと許可が受けられない
- 他の用途で利用している物件を活用する場合は200㎡を超えると用途変更の確認申請が必要
- フロント設置もしくは緊急時の駆けつけ要件がある(管理事務所設置)
- 排水・井戸等の設備や景観法なども関わってくる
- 条例において別途手続きが定められているケースも多い
3-3 特区民泊ではじめる
東京都大田区、大阪府、福岡県北九州市などの国家戦略特区で指定された地域のみで可能となっています。
該当するエリアであればメリットは大きいです。
国家戦略特区制度とは?
国家戦略特区制度は、アベノミクス成長戦略の実現に必要な、大胆な規制・制度改革を実行し、「世界で一番ビジネスがしやすい環境」を創出することを目的に創設されました。
宿泊分野に指定された国家戦略特区では対象施設が要件に該当することについて、都道府県知事(保健所)が認定することにより、旅館業法の適用が除外されることとなっています。
つまり旅館業法の適用が除外された施設が、民泊運営が可能になるといった理屈になります。
メリット
- 1予約が2泊〜9泊までの予約であれば、年間日数制限はなく運用できる。
- フロント設置が不要
- 旅館業に比較して簡易的な要件
デメリット
- 最低宿泊日数があるため、1泊利用などには対応できない
- また最大宿泊日数もあり長期連泊には適さない
- 利用できるエリアが限定的
旅館業・特区民泊・住宅宿泊事業 比較表
定義
|
旅館業 | 特区民泊 | 住宅宿泊事業 |
宿泊料を受けて人を宿泊させる営業 | 外国人旅客の滞在に適した施設を賃貸借契約等に基づ き一定期間使用させるとともに、滞在に必要な役務を提 供する事業に供する施設 |
人の居住の用に供されていると認められる家屋において、旅館業法上に規定する営業者以外の者が人を宿泊させる事業 | |
滞在及び営業日数の制限 | 規定なし | 2 泊 3 日以上(最低滞在日数) | 年間180日以内(宿泊させる日数) |
契約形態 | 宿泊契約 | 賃貸借契約及びこれに付随する契約 | 宿泊契約 |
客室面積 | 【内法】7㎡以上(ベッド設置時は9㎡以上) 簡易宿所:原則33m2 以上(宿泊者の数を 10 人未満とする場合は、3.3 m2×人数でも可) |
原則 25m2以上【壁芯】 (滞在者の数を8人未満とする施設では、居室の滞在者1人当たりの床面積(押入れ、床の間は含まな い。内寸により測定したもの)が 3.3 平方メートル以上 である場合も可)大阪府 |
3.3㎡×人数が目安【内法】 |
浴室 | 施設に必要(除外規定あり) ※シャワー室のみ可 |
シャワーのみでも可 | シャワーのみでも可 |
トイレ・洗面 | 必要 | 必要 | 必要 |
キッチン | 規定なし | 必要 | 必要 |
管理委託の必要性 | 規定なし | 規定なし | 家主居住型であって居室数が 6 以上又は、家主不在型の場合は管理委託必要 |
建築基準法の用途 | ホテル・旅館 | 既存用途(共同住宅、寄宿舎、一戸建て、長屋) | |
消防法上の用途 | ホテル・旅館 | ||
申請先 | 施設所在地を所管する保健所 | 各自治体 | 都道府県 |
手数料 | 必要(22,000 円) | 必要(21,000 円) | なし |
第4章【設備編】投資コストと事業計画に沿ったプランを考えよう
4-1 民泊運営開始までのイニシャルコスト
民泊施設オープンまでにかかるイニシャルコストについてざっくり把握しておきましょう。
第2章で事業計画を立てた方も改めて確認してみることをおすすめします。
全物件共通
- 消防設備設置費用
- 家具・家電購入費用
- チェックイン端末設置費用
- リネン・タオル・シャンプー・洗剤等の消耗品購入費
- 通信回線の契約費用
ケースバイケースのオプション
- リフォーム費用
- チェックイン対応や管理を外注する場合、契約にかかる費用
- 用途変更や設計変更をする場合は建築士などへの報酬
- 許認可申請を行政書士に依頼する場合の報酬
- 賃貸物件を契約する場合は仲介手数料・初期費用等
- 物件購入する場合は購入費用、各種税金、仲介手数料など
上記は一例ですが、規模に応じたコストが発生します。
4-2 民泊運営中に発生するランニングコスト
ランニングコストについては、外注費が大きなウエイトを占めるため、自身でどこまで管理を行うかによって、大きく変化します。
また基本的に多人数で利用できる施設や連泊時には水道光熱費が高騰する傾向があります。
冬場のエアコン代などは特に顕著です。
旧式の設備の場合、交換やエコを意識した工夫をするのも良いでしょう。
- 清掃費用
- リネンクリーニング費用
- ゲスト対応外注費
- スマートロック利用料
- 光回線などの通信費
- 民泊保険
- 水道光熱費 etc
4-3 突発的に発生する可能性のあるコスト
民泊運営を行っていると、想定外のトラブルもつきもの。
水漏れ被害や設備の故障、鍵の紛失などは予め想定しておくことで代替案を提案できるものもあります。ゲストの被害を最小限に抑え、コスト負担を減らしましょう。
例えば、予備の鍵を近くに設置しておくことで紛失時にすぐに届けられなくても、案内が可能です。
ゲストの満足度向上にもつながるポイントです。
4-4 すぐに結果はでない。長期的な目線で事業計画を立てよう
民泊運営はすぐに結果がでるとは限りません。
1つの予約ごとに丁寧に対応し、ゲストの満足した口コミを積み重ねて評価されていきます。
施設についても、完全に他人任せにするのではなく定期的にチェックし清掃の不備や汚れ、破損箇所はないかなど常に確認をしていきます。
タイミングにもよりますが2〜3ヶ月程で口コミは徐々に集まり、半年程度で事業計画とずれはないか確認したいところです。
何らかの事業や商売を営んでいる方は理解されていることと思いますが、軌道に乗るまでは地道な努力が必要な部分です。